東京高等裁判所 昭和28年(く)78号 判決
本件抗告の要旨は、原審が昭和二十八年七月二十三日被告人松本三益に対する団体等規正令違反被告事件について、右被告人に対する保釈許可決定をなすにあたり、その保証金額を三十万円と定めたのであるが、(一)右被告人において逮捕状が発せられてから約二年十ケ月間逮捕されなかつたのは被告人がことさらに逮捕を免れるため変装その他特別の術策を弄して地下に潜行し巧みに逃亡していたのではなく、ただその住所に帰らなかつたに過ぎない。(二)逮捕され起訴された現在においては、被告人において裁判を受ける権利を絶対に放棄する意思はなく、むしろ積極的に迅速公平な裁判を受けようと念願し保釈後逃亡する如き考えは全くない。(三)本件公訴事実は極めて軽微ないわゆる形式犯であつて重罰を科すべき事案ではない。(四)被告人は、無職で財産もなく、金三十万円は個人的な力により又は簡単に他より援助を受けて調達することも極めて困難な状態にあり、且つ被告人は、現在心臓弁膜症、心臓肥大症並に大動脈拡張症に罹つており身体の静養を要する健康状態にあつて逃亡しようとしても不可能な状態にある。以上の諸事情を考慮すれば原決定の保証金額は過大であるから、この点の是正減額を求めるため本抗告に及んだというのである。
よつて当裁判所が別件(昭和二十八年(く)第七一号原審検察官からの保釈許可決定に対する抗告申立事件)において東京地方裁判所から取り寄せた被告人松本三益に対する団体等規正令違反被告事件の記録並びに右抗告申立事件の記録を参酌して本件抗告理由を按ずるに、東京地方裁判所は、被告人松本三益に対する団体等規正令違反被告事件において、右被告人の原審弁護人青柳盛雄の請求により昭和二十八年七月二十三日勾留中の右被告人の保釈を許可し、その保釈保証金を三十万円とし、内金十万円は弁護人青柳盛雄、内金十万円は弁護人風早八十二の保証書をもつてこれに代えることを許可する旨の保釈許可決定をしたことは明らかである。而して裁判所が保釈保証金を決定するに当つては、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額を定めなければならないことは刑事訴訟法第九十三条第二項の規定するところであるのでこの規定の律意にかんがみ抗告人の所論を参酌して原審の決定した保証金額の当否を前記記録に現われた諸般の事情について検討勘案するときは、原決定は右規定に則つて被告人松本三益の出頭を保証するに足りる金額として洵に相当な額を定めたものであつてこれを過大に定めた事跡は全く窺えないのみならず、その他保証金額が相当でないことを窺知するに足りる何らの疎明資料は存しないのであるから結局本件抗告は理由のないものというの外はない。